誰もが感じている「心が自由にならない」思いを解き放つヒントにしていただけたら、との思いから、この連載をはじめました。
その第14回です。
☆このブログは「八日目の蝉」の内容に踏み込んで記述しているところがあります。これからこの小説や映画等をご覧になろうとされている方は、その点についてご理解の上、ブログをお読みください。


映画「八日目の蝉」の中で、誘拐した赤ちゃん=恵理菜を連れた、誘拐犯の希和子が、女性だけが自給自足をしている特殊な団体の中に逃げ込んで、一時期、身を隠すというエピソードがあります。

大人になった恵理菜は、その環境で子ども時代に共に育った女性=千草、との再会から、自分探しの旅に出る事になるのですが、千草は、女性しか存在していなかった環境で育ってきたことで、男性に近づけない、恋愛ができないという大きな悩みを持っていました。


映画のこのシーンを観た時に、私は、思い出すクライアントさんがいました。

すると、その方(=Bさんと呼ばせていただきます)も、この映画を観られていたのです。

この連載で、私がこの映画を観た頃に、不思議と私のカウンセリングを受けてくださっているクライアントさんが同じように映画を観て、私と同じような感じを感じられていたと書かせていただきました。

前回に続き、今回も、そんな中の一人の方、Bさんのお話です。
(ご本人に許可を得て書かせていただいています。)


Bさんは、当初、今取り組んでいる仕事に行き詰まっているというご相談でカウンセリングを受けにこられました。

とても真面目な方で、何事にも誠実に、また、不正は許さないという強い気持ちを持っておられました。

ただ、あまりに誠実さを追求されたり、ルールや道徳的なことがらに対しての自分への戒めが厳しい方ので、「とても厳しい家庭に育ったのではないですか?」と聞いてみました。

厳しかった親に、大人になった今も、常に監視されているような感じがあって、この心の中の厳しい目が、Bさんを縛って、いつも真面目でなければならないと自らを追い込んでしまうことが、仕事が辛い原因になる場合があります。

ところが、その質問に対する答えは、私が想定していた以上のものでした。

「私の親は、規律の厳しい、宗教のようなものに入っていて、私は限られた範囲の価値観で育てられました。」
「大きくなってから、それが特殊な価値観だと知って、私は親の言う事を聞かなくなったのですが、今でもそれが私を縛っているんです」

例えば、こんな話がありました。
小さい頃、七夕の日に、短冊に願い事を書いていたら、そんなものに願いを書くのは間違っている、と叱られた、と。

「教え」以外のことをやってはいけないし、「教え」をやぶってはいけない。

大人になって、社会の常識やルールは、そうした「教え」とは大きく違っているものと知ったBさんは、今まで自分を縛ってきた親へ強い恨みを持ち、親とのつながりを疎遠にしていきました。

ところが、ルールや道徳的なことがらをきちんと守らなければならない、という感覚は、なくなることはなく、自分の心がいつまでも自由になれず、恋愛も結婚も自由な気持ちで考えることができなくなっているとのことでした。

しかしながら、ここで彼女に救いの手があらわれます。
それが、今、彼女がつき合っている恋人の存在でした。
彼は彼女のこうした過去について理解してくれた初めての存在でした。

そんな彼に出会ったことをきっかけに、彼のためにも、自分のためにも、心の縛りを解きたいとカウンセリングの門をたたいてくださったのです。

カウンセリングの中で、過去の辛かった体験や、どんな思いでこうした環境で育ってきたのか、両親への気持ちや、自分が言えなかった気持ちを、丁寧に伺っていきました。

その中で、このブログで書かせていただいた、私自身の体験もお話しました。

たくさんの思いを話していただき、そして、その時に感じられなかった感情を感じてもらうアプローチを積み重ねていくうちに、Bさんの心は、少しずつ変化していき、真面目で固かった心が、少しずつゆるんでいかれました。

両親から愛されていないと思っていたことが、実はそうではなく、両親の事情や思いがあっての、その時の両親なりの愛の行動だったこと。

辛い思いをしてきた大きさの分だけ、こうした思いに至るには時間がかかりました。
でも、親を許そう、という気持ちにまでなっていかれたのです。

映画を観ての感想を教えてもらえませんか?との私の問いに、Bさんはこんなことを語ってくださいました

* * * * * * *

カウンセリングで小さい時の記憶をたどってみて
普通の家ではなかったけれど
悪いことばかりじゃないことを思い出しました。

両親があんなに「教え」に厳しかったのは、
それを守っていれば幸せになれると信じていたから。

やり方は良くなかったと思うけど
私を幸せにするために、「教え」を守るために
あんなに真剣で、必死だったんだな
そう思えるようになりました。
やっと今、両親の愛の部分を感じられるようになったと思います。

私は小さい時、こんな家に生まれたくなかったと思っていました。
でも、今は違います。


☆ 続く ☆

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